宅配・配送ドライバーのカスハラ対策|一人で対応する現場で身を守る手順と記録の残し方
この記事の要点
配達先で一人で客と向き合う宅配・配送ドライバーには、店舗向けのカスハラ対策をそのまま当てはめにくいのが実情です。厚生労働省の指針が挙げる対処の例をふまえ、営業所に電話でつなぐルールと記録を残す仕組みで、ドライバーを一人にしない手順を整理しています。

配達先の玄関先やマンションのエントランスでは、宅配ドライバーが一人で客と向き合います。2026年10月1日からカスハラ対策はすべての事業主の義務になりましたが、配送のカスハラは、上司や同僚がすぐ近くにいる店舗とは条件が違い、店舗向けの対策をそのまま当てはめにくいのが実情です。
この記事では、宅配ドライバーのカスハラ対策として、一人で動く配送の現場に合わせた対応の型、営業所への連絡ルール、記録の残し方を、管理者の立場から整理します。
配送の現場でカスハラが起きやすい場面
よくある場面を3つに分けて見ておきます。
玄関先・エントランスでの暴言や長時間の引き止め
荷物の状態や到着時刻への不満から大声で責められる、謝罪を何度も求められる、玄関先で話が終わらず次の配達に向かえない、といった場面です。相手の住まいの前という、ドライバーにとって離れにくい場所で起きるのが特徴です。
再配達・時間指定・不在をめぐる強い要求
「今すぐ持ってこい」「指定した時間に来なかったのはおかしい」など、運行の都合では応じられない要求が繰り返されることがあります。
営業所やコールセンターに入る電話での追及
配達のあとに、営業所やコールセンターへ長い電話や繰り返しの電話が入ることもあります。電話の対応の型は電話のカスハラ対策にまとめているので、この記事では配達先での対応を中心に扱います。
一人で対応する現場が抱える3つの難しさ
ドライバーがカスハラに一人で向き合うことになる配送の現場には、店舗とは違う難しさがあります。
その場で相談できる上司がいない
店舗なら店長を呼べますが、配達先では隣に誰もいません。どこまで応じるか、いつ切り上げるかを、ドライバーが一人で判断することになりがちです。
固定の防犯カメラが届かない
配達先は毎回違う場所です。営業所に防犯カメラがあっても、玄関先でのやり取りは映りません。固定カメラと持ち歩ける手段の違いはカスハラ対策の録音・録画機器の比較で整理しています。
あとから「言った・言わない」になりやすい
その場にいたのがドライバーと相手だけだと、あとで営業所に苦情が入ったときに、何があったかを確かめる材料がありません。ドライバーの説明だけでは会社として判断しにくく、本人も守りにくくなります。
厚生労働省の指針が示す対処の例
改正労働施策総合推進法により、カスハラ対策は業種や規模に関係なくすべての事業主の義務になりました。具体的な措置は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」に示されています。指針は、カスハラが起きたときの対処として、たとえば次のような例を挙げています。
- 従業員が管理監督者などにすぐ報告し、その場の対応について指示を受ける
- できるだけ従業員一人で対応させない
- やり取りを録音・録画する
- 暴行・傷害・脅迫など犯罪にあたりうる言動は、警察に通報する
このうち「一人で対応させない」は、配送の現場ではそのままでは実現しにくい項目です。だからこそ、電話で営業所とつなぐこと、記録を残すことで、ドライバーを一人にしない仕組みを作っておくことが大切です。
なお厚生労働省は、業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアルの一つとして「宅配業編」を公開しています。社内の手順を作るときにあわせて確認してください。
配達先でカスハラにあったときの対応手順
宅配ドライバーのカスハラ対策では、現場で迷わないよう、社内で「型」を決めておくことが出発点になります。次の手順は、社内で決めておく型の一例です。
①落ち着いて要件を確認し、できることとできないことを短く伝える
まず相手の話を聞き、何を求めているかを確かめます。そのうえで、できることとできないことを短く伝えます。その場で約束をしないことも、型として決めておきます。
②引き止めが続いたら、営業所に電話して指示を仰ぐ
話が終わらないときは、ドライバーが一人で抱え込まず、営業所に電話して判断を仰ぎます。「会社に確認します」と伝えることは、その場を区切るきっかけにもなります。
③録画を始める(録画していることを相手にも伝える)
言動が強くなってきたら、録画を始めます。録画していることは相手にも伝えます。
④身の危険を感じたら、荷物より自分の安全を優先してその場を離れる
危ないと感じたら離れてよいことを、会社として事前に伝えておきます。
⑤暴行・脅迫などは警察へ通報する
暴行や脅迫など犯罪にあたりうる言動があったときは、警察に通報します。
営業所への連絡ルールを決めておく
「困ったら電話して」だけでは、ドライバーは遠慮して電話をかけません。連絡のルールは具体的に決めておきます。
「何分たったら電話する」の目安を決める
たとえば「引き止めが10分続いたら営業所に電話する」のように、社内で目安を決めておきます。時間は法令や指針で決まっているものではないので、自社の配達の実情に合わせて決めてください。
管理者が代わりに対応する流れを決める
電話を受けた管理者が、相手と電話で話を代わる、あとで折り返すと伝えてその場を終える、といった流れを決めておきます。
次の配達への影響の扱い(遅延は会社の判断とする)
対応で次の配達が遅れたときは、ドライバーの責任ではなく会社の判断として扱うと決めておきます。遅れを気にして無理に応じてしまうことを防げます。
記録を仕組みにする
配達先には防犯カメラがないので、記録はドライバーが持ち歩く手段で残すことになります。カスハラ対策(KhGuard)は、ドライバーのスマホをワンタップで録画の道具にするサービスで、専用の機材は要りません。
- 録画を始めると「この会話は記録されています」と音声で流れるため、録画していることが相手にも伝わります
- 録画には GPS の位置情報が自動で付くので、どの配達先での出来事かがわかります
- 録画を止めるとクラウドへ自動で送られます。電波がない場所では端末に待機させ、電波が戻ってから送り直します
- 送信が終わった動画は端末から消えるので、ドライバー個人のスマホに残りません
- 管理者はPIN付きの共有リンクで、警察や弁護士に動画を渡せます
録画は、個人情報保護法などを守って扱う必要があります。指針も、録音・録画では顧客等の個人情報を適切に扱うよう求めています。考え方はカスハラの録画と同意のQ&Aにまとめています。
あわせて、日時・場所・内容・対応者を記録に残し、営業所で共有して再発防止に使います。指針も、必要に応じて事案の内容や対応の経緯を記録し、関係部門で共有して再発防止に活かすことに触れています。
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営業所に戻ってからやること
ドライバーが戻ったら、まず本人に声をかけ、体調や気持ちの状態を確かめます。必要に応じてカスハラの相談窓口に引き継ぎます。
次に、記録や録画を管理者が確認し、何があったかを整理します。同じ相手から繰り返し被害がある場合は、出入り禁止などの対応を会社として判断することも検討します。
出典
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(PDF)
- 厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策マニュアルについて」
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